[建設]特定技能ビザで働く外国人が「脱退一時金」を請求する方法

特定技能ビザで日本で働く外国人が、母国へ一時帰国するタイミングで、「脱退一時金」を請求することができます。脱退一時金を請求するために一時帰国をする場合、合わせて出入国在留管理局への届出も必要になります。この記事では、次の事例をもとに、脱退一時金を請求する手続きと、出入国在留管理局への届出について詳しく解説します。

《事例》

NGUYEN

私はベトナム人のNGUYENです。3年間の技能実習を終え、現在は特定技能ビザで建設会社に勤務しています。日本で働き始めて通算5年になり、その間は厚生年金に加入しています。この度、会社から休暇をもらい1か月間一時帰国することになりました。このタイミングで「脱退一時金」を請求したいのですが、どのうような手続きをしたらよいのでしょうか?また、入管にも書類を出さないといけないという話を聞きましたが、どのような書類を出せばよいのでしょうか?

目次

脱退一時金とは?

脱退一時金とは、日本で厚生年金や国民年金に加入していた外国人が、日本を出国した際に請求できる一時金です。具体的には、次の条件を満たす場合に請求することができます。

受給要件

1.日本国籍を有していない
2.厚生年金保険または国民年金の被保険者でない
3.年金保険料を6か月以上納付している
4.日本国内に住所を有していない
5.出国後2年以内に請求を行う

脱退一時金の請求手続き

一時帰国の際に脱退一時金を請求するためには、次の必要書類等を準備して手続きを行います。

必要書類等の準備

市役所に転出届を提出

脱退一時金を請求するためには、日本国内に住所を有していないことが条件になりますので、一時帰国する前に市役所に転出届を提出します。日本年金機構が脱退一時金請求書を受理した日に、住所がまだ日本にある場合は、脱退一時金の請求はできませんので、必ず転出届を提出してから請求します。

脱退一時金請求書の作成

脱退一時金の請求書は、外国語(英語、ベトナム語他)と日本語が併記されています。

請求書は、日本年金機構のホームページからダウンロードできるほか、「ねんきんダイヤル」に電話をすると郵送で送ってもらえます。また、年金事務所や市役所でも入手できます。

脱退一時金請求書に記入する「離日後の住所」について
脱退一時金請求書_4.「離日後の住所」欄には、母国の住所を記入します。一時帰国の場合でも、日本の住所を記入した場合は、脱退一時金が支給されない可能性があります。

出所:脱退一時金請求書(日本年金機構)

添付書類の収集

・パスポートのコピー

身分事項が記載されているページ、パスポートにホッチキス止めされている指定書

・在留カードのコピー

表と裏の両面

・振込を希望する金融機関の口座が確認できる書類

脱退一時金請求書の「銀行の証明」欄に銀行の証明を受けるか、「銀行名」、「支店名」、「支店の所在地」、「口座番号」、「請求者本人の口座名義」であることが確認できる書類(銀行が発行した証明書等)
※日本国内の金融機関で受け取る場合は、口座名義がカタカナで登録されていることが必要です。
※ゆうちょ銀行では脱退一時金を受け取ることができません。

・年金手帳または基礎年金番号がわかる書類

コピーで可

・委任状

行政書士や社会保険労務士などの専門家に請求手続きを代行してもらうことも可能です。なお、代理人が請求手続きを行う場合は、委任状が必要です。

書類の提出

脱退一時金の請求は、日本から出国後に、脱退一時金請求書と添付書類を揃えて日本年金機構に郵送します。

【郵送先】
Japan Pension Service (Foreign Business Group)
3-5-24, Takaido-Nishi, Suginami-Ku,
Tokyo 168-8505 JAPAN
tel:+81-3-6700-1165
〒168-8505 東京都杉並区高井戸西 3 丁目 5 番 24 号
日本年金機構 (外国業務グループ)
電話:03−6700−1165

一時帰国する前に日本で手続きをする事はできる?
出国前に請求手続きを行うことも可能です。その場合、市役所に転出届を提出し、転出届に記入した転出(予定)日以降に、脱退一時金請求書類が日本年金機構に到着するよう郵送する必要があります。

請求の受理・一時金の支払い

提出した書類に不備や確認事項等がなければ、請求書類が受理され審査が行われます。審査が完了し受給額が決定すると、約4カ月後に指定された銀行口座に振込まれます。脱退一時金の振込と同時に「脱退一時金支給決定通知書」が送られてきます。

書類に不備等がある場合は、修正や追加書類の提出を求められることがあり、脱退一時金の受給額の決定と振込までに時間がかかりますので、提出前に不備がないかよく確認しましょう。

脱退一時金は、いくらもらえる?

脱退一時金の受給額は、日本での年金制度への加入期間に応じて、支払った保険料の一定の月数を上限として計算されます。

在留資格「特定技能1号」の創設により、期限付きの在留期間の最長期間が5年となったことなどにより、2021年(令和3年)4月より、脱退一時金の支給額計算に用いる月数の上限が36月(3年)から60月(5年)に引き上げられました。

具体的な上限月数は、次のとおりです。

2021年(令和3年)4月以降に年金の加入期間(保険料を納付した月)がある場合
→国民年金または厚生年金保険それぞれに支払った保険料の60月(5年)分を上限として計算
2021年(令和3年)3月以前のみに年金の加入期間(保険料を納付した月)がある場合
→国民年金または厚生年金保険それぞれに支払った保険料の36月(3年)分を上限として計算

具体的な受給額は、次の計算式に当てはめて計算されます。なお、受給の際に20.42%の所得税が源泉徴収されます。

《 厚生年金の脱退一時金の計算式 》
① 被保険者であった期間の平均標準報酬額 × ② 支給率

平均標準報酬額とは、平均月収のことです。平均月収は、以下のように計算します。
年金加入期間に得た収入(基本給 、時間外手当など)/ 働いた月数=平均月収

《脱退一時金の計算例》
① 200,000 ×② 5.5 = 1,100,000円
・平均標準報酬額:200,000円
・被保険者であった期間:2019年8月~2024年8月(60月)➡ 支給率:5.5
※厚生年金の脱退一時金は、20.42%の税金が源泉徴収されます。
所得税還付想定受給額:1,100,000円× 20.42%=224,620円
脱退一時金想定受給額:1,100,000円-224,620円=875,380円

被保険者であった期間支給率計算に用いる数支給率
6月以上12月未満60.5
12月以上18月未満121.1
18月以上24月未満181.6
24月以上30月未満242.2
30月以上36月未満302.7
36月以上42月未満363.3
42月以上48月未満423.8
48月以上54月未満484.4
54月以上60月未満544.9
60月以上605.5

出入国在留管理局への届出

特定技能外国人が脱退一時金の請求をするためには、特定技能外国人を受け入れている企業と外国人本人それぞれが、一時帰国前と再入国後に出入国在留管理局へ届出る必要があります。

一時帰国前

受入れ企業が行う届出

特定技能外国人が脱退一時金を請求するためには、雇用契約を一旦終了する必要があるため、日本へ戻ってきてから同じ雇用条件で再雇用する場合でも、一旦雇用契約が終了する見込みがたった時点で出入国在留管理局へ「受入れ困難に係る届出」を提出します。

「受入れ困難に係る届出」の提出後、特定技能雇用契約が終了してから14日以内に、「特定技能雇用契約(契約の終了)に係る届出書」を提出します。

国土交通省への手続きについて

一旦退職し、日本へ戻ってきてから退職前と同じ企業が再雇用し、雇用契約の内容に変更がない場合は、国土交通省の外国人就労管理システムで「再雇用申請」を行い、「退職日」、「再雇用予定日」を入力して認定を受けます。就労再開後一ヶ月以内に受入報告を行います。

出所:1号特定技能外国人の出国と国交省への手続について(再雇用申請)
出所:1号特定技能外国人の出国と国交省への手続について(再雇用申請)

なお、雇用契約の内容に変更がある場合は、「退職報告」を行い、また、新たな特定技能外国人を雇用する場合と同じになるので、雇用開始日よりも前に新たな計画認定を受ける必要があります。

本人が行う届出

特定技能外国人本人は、契約の終了後14日以内に、「所属機関に関する届出(契約の終了)」を提出します。

再入国後

受入れ企業が行う届出

再入国後は、新たな契約に係る特定技能雇用契約書・雇用条件書・新たな雇用契約に係る建設特定技能受入計画認定証のコピーを添付し、新たな特定技能雇用契約の締結後14日以内に、「特定技能雇用契約(新たな契約の締結)に係る届出書」を提出します。

本人が行う届出

特定技能外国人本人は、新たな契約の締結後14日以内に、「所属機関に関する届出(新たな契約の締結)」を提出します。

再入国後は、忘れずに市役所で住民登録を行いましょう。

まとめ

特定技能外国人が一時帰国時に脱退一時金を請求する場合、上記の手続きを正確に進めなければなりません。

もし、手続きの詳細について不安や不明点がある場合、専門家に相談することを強くお勧めします。当事務所では、特定技能ビザで働く外国人の皆さまや、受入れ企業さまの手続きを全力でサポートいたします。脱退一時金申請に必要な書類の準備、作成、さらに出入国在留管理局への届出の代行まで、円滑に手続きを進められるようお手伝いいたします。

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この記事を書いた人

三木 秋穂のアバター 三木 秋穂 特定行政書士・申請取次行政書士

淡路島の走る行政書士/Luật Sư Hành Chính/行政書士事務所8年経営/日本で頑張る特定技能外国人サポート+技能実習/車と農地と建設業の手続きもやります/愛媛県イメージアップキャラクター「みきゃん」応援団/山登りと長渕剛の歌と神社巡りが好きです/ベトナム料理を食べ歩いています
▷1972年(昭和47年)9月21日生まれ
▷兵庫県行政書士会所属
▷兵庫県行政書士会申請取次行政書士管理委員会副委員長
▷兵庫県行政書士会淡路支部理事

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